インタビュー
自分でお米を育ててみて変わったこと。
昨年、ほぼ日さんが青山の事務所屋上で育てた9バケツの稲。真夏には毎朝、担当の乗組員たちが交代で30リットルもの水をはこび、収穫したのは玄米の状態で300g。精米すると、270g。2合以下。
えっ、これだけ!と。田んぼが広い意味がわかりましたね。育てる前は、きっと収穫が一番うれしいんだろうなって思ってたんです。少量であれ、穫れた時ももちろんうれしいんですけど、いちばん最初、芽が出るのもうれしいんですよね。ちょこん、と本当にかわいくて。毎朝絶対大きくなるんですよ。目に見えてわかるんです。
種もみから芽が出たところ。本当に、かわいい…!(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN“景色”としての田んぼを眺める機会はあっても、お米の成長をじっくり見る機会はそんなにありません。そのときそのときでどんな姿をしているのか。お米の成長を頭の片隅に置く生活。ちょっと憧れます。
ごはんに対して工夫するようにもなりましたね。土鍋で炊いたり、圧力鍋で炊いたり。結局自分は、圧力鍋で硬めに炊くのが一番好きになりました。 あとは、田んぼが気になるようにもなりました。以前バリ島に行った時に、向こうって気候があったかいからか、植える時期が決まってないっぽいんです。あっちで稲穂が揺れているかと思ったら、こっちで田植えしてたりとか。そういうのに興味が向くようになりました。
「ちいさな田んぼキット」を買った読者の人も、きっとそんな楽しみを増やしていくのでしょうね。
育てるのを楽しんでほしいっていうか、そんなことをわざわざ言わなくてもきっと楽しんでもらえると思います。売り上げが福島への寄付につながるっていうのもあるんですけど、米を自分でつくって、穫って、食べられる。それ自体のうれしさやわくわく感を、大変も含めて味わってほしいなあと思います。
「ちいさな田んぼキット(現在は完売)」の1種。木製のオシャ レな外枠の中は発泡スチロール製。(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
秋にはキットを購入した人たちのもとへ、監修に協力してくれた藤田さんの田んぼで穫れた新米が3kg届くんだそうです。それと自分で育てたものを玄米のまま混ぜてみたりすると楽しいかもしれない、と話す奥野さんのほうが楽しそうでした。
同じ釜の飯を食う、ほぼ日さん。
ほぼ日を運営する東京糸井重里事務所では、毎週火曜日が給食の日だそう。その中身は、ごはん、みそ汁と、おかず何種類かの定食形式。パンの日は今のところないそうです。
その流れで話題は、近年叫ばれている「コメ離れ」に。今回の表参道ごはんフェスのキャッチコピーでもありますが、奥野さんにはコメ離れの実感、ありますか。
いや、正直あんまりなかったです。そうなんですね。米、好きだし、普通に食べますね。
ああ、そうだ。アミノ酸の研究者の方とお会いした時お聞きしたのが、ヒトにとって必須アミノ酸を摂取するのに、米って効率が悪いそうなんです。でもその方でさえ「米のおいしさは別」って言っていました。日本の米っておいしいじゃないですか。
「長く続けてほしいですね」。
その後も、話を聞きにお伺いしたはずが、時折こちらが夢中で話している格好になりながら、honshokuでお米屋さん見学をした時の話、今回のフェスで販売するブレンド米試食がとてつもなく楽しかった話、米屋で米を買う粋な感じや、宅配便ではなくお米屋さんが配達してくれる面白さなど、「お米」を軸にたくさんの話をしました。
…なんでしょうね。このお米にまつわるいい感じは。他の食材だとこうはいかないですよね。米屋みたいに茄子だけを売る茄子屋さん、きゅうりだけを売るきゅうり屋さんもないだろうし。ちいさな田んぼキットが完売したこともそうですけど、米のポテンシャルってすごいと感じています。
最後にひとつ、こんなことを聞いてみました。表参道ごはんフェスに期待されることってありますか。
もちろん、もっといろんな方にほぼ日のお米活動を知ってもらいたいっていうのもありますし、あとは…長く続けてほしいですね。一緒に長く続けましょうというか。そんな感じで大丈夫ですか?
〈完〉
(取材:honshoku近藤 雄紀 高野 瞳/文:honshoku高野 瞳)
株式会社東京糸井重里事務所 ほぼ日刊イトイ新聞 奥野 武範氏
出版社に勤務後、2005年に東京糸井重里事務所に入社。読み物チームに在籍し『東北の仕事論』『21世紀の「仕事!」論。』、書籍『はたらきたい。』の編集などのコンテンツ担当。今年、「ほぼ日」として、福島県産コシヒカリの種もみを自宅で栽培できる「ちいさな田んぼキット」をつくる。▼ほぼ日コンテンツ「ただいまお米栽培中。
http://www.1101.com/okome